地域特性を活かす!アナログとデジタルでつなぐ「防災情報マップ」作成のすすめ
地域の力を結集する「防災情報マップ」の重要性
災害時に私たちの命や財産を守るためには、地域全体で防災力を高めることが不可欠です。特に、地域の高齢化が進む現代においては、一人ひとりの住民、そして地域コミュニティ全体が「自分ごと」として防災に取り組む意識がこれまで以上に求められています。
地域で防災活動を進める上で、まず最初に取り組むべきことの一つが、地域の特性を理解し、それを情報として可視化することです。そのための有効な手段が、「防災情報マップ」の作成です。このマップは、単なる地図情報にとどまらず、地域住民の知恵や経験、そしてつながりを集約し、いざという時に役立つ生きた情報源となります。
「防災情報マップ」とは何か?
防災情報マップは、地域内の危険箇所や避難経路、避難場所、給水場所、そして地域の協力者や要配慮者に関する情報などを地図上に分かりやすくまとめたものです。作成を通じて、地域住民が防災について話し合い、共通認識を深めるきっかけにもなります。
このマップは、アナログの手書き地図から、パソコンやスマートフォンで閲覧できるデジタルマップまで、地域の状況や目的に応じて様々な形式で作成することが可能です。特に、高齢の住民の方々にも馴染みやすいアナログの地図と、若い世代や情報収集に役立つデジタルの利点を組み合わせることで、より幅広い層に役立つマップを作成できます。
防災情報マップ作成のステップ
防災情報マップの作成は、以下のステップで進めることができます。
ステップ1:地域の情報収集と現状把握
まずは、地域の「今」を知ることから始めます。
- 地域住民の知見を活かす: 長年地域に住んでいる方々は、過去の災害経験や、地域の危険箇所、安全な場所について深い知識をお持ちです。座談会やアンケートを通じて、そうした貴重な情報を集めます。例えば、「あの道は雨が降ると冠水しやすい」「この小道は夜間は暗くて危険だ」といった具体的な情報が役立ちます。
- 危険箇所の洗い出し: 浸水の恐れがある場所、土砂災害の危険性がある斜面、狭い道路、ブロック塀の倒壊リスクなど、災害時に危険が想定される場所をリストアップし、実際に地域を歩いて確認します(フィールドワーク)。
- 避難場所・避難経路の確認: 指定避難所だけでなく、一時的な集合場所や広域避難場所、そこへ向かう安全なルートを確認します。災害の種類によって、適切な避難場所や経路は異なります。
- 要配慮者情報の把握と共有: 高齢者や障がい者、乳幼児、外国人など、災害時に特に支援が必要な方々の情報を行政と連携して把握します。ただし、個人情報の取り扱いには十分な配慮が必要です。名簿の共有範囲や、支援方法について事前に合意を形成し、守秘義務を徹底することが重要です。
- 地域の協力者・資源の特定: 地域のリーダー、自主防災組織のメンバー、医療関係者、建設業者、食料品店、薬局など、災害時に協力が期待できる個人や団体、そして井戸水や倉庫、広場などの地域資源を把握します。
ステップ2:マップの企画と構成
集めた情報をどのようにマップに落とし込むかを具体的に検討します。
- 目的の明確化: 「住民の避難行動を助ける」「要配慮者支援に役立てる」「防災訓練に活用する」など、マップの主な目的を明確にします。目的によって盛り込むべき情報の優先順位が変わります。
- アナログマップの検討: 地域全体を俯瞰できる大きな紙の地図を用意し、危険箇所を色分けしたり、重要な情報を付箋で貼り付けたりする方法は、全員で情報を共有しやすく、議論を深めるのに適しています。高齢の方々にも馴染みやすい形式です。
- デジタルマップの検討: パソコンやスマートフォンの地図アプリ、またはWeb上の無料ツール(例: Google My Mapsなど)を活用することで、より詳細な情報や写真、動画などを紐づけることが可能になります。情報の更新も比較的容易です。
- 表示する情報の選定: 全ての情報を詰め込みすぎると分かりにくくなるため、最も重要で、読者が行動に移しやすい情報を厳選して表示します。凡例を設けて、マークの意味を分かりやすく説明することも重要です。
ステップ3:情報を集約しマップを作成
企画に基づいて、実際にマップを作成していきます。
- 手書きマップの作成: 地域の地図を拡大コピーし、集めた情報を手書きで書き込んでいきます。住民参加型のワークショップ形式で行うことで、地域のつながりを深めながら、より実用的なマップが生まれます。
- デジタルマップの入力: 無料のオンラインマップ作成ツールやGIS(地理情報システム)ソフトウェアを使って、位置情報と関連するテキスト、画像などを入力していきます。PC操作に慣れた方が中心となり、高齢の住民の方々の知見をデジタル化する手伝いをすることも有効です。
- 写真やイラストの活用: 危険箇所や避難場所の写真を添付したり、分かりやすいイラストを使ったりすることで、視覚的に理解しやすいマップになります。
ステップ4:マップの共有と活用
作成したマップは、地域住民に広く共有し、実際に活用することが重要です。
- 回覧・掲示による共有: 紙のマップは、自治会や町内会の掲示板、集会所、公共施設などに掲示し、定期的に回覧します。回覧時には、マップの説明会を併せて実施すると、理解が深まります。
- デジタルでの公開・共有: デジタルマップは、地域のウェブサイトやSNSを通じて公開し、誰もがアクセスできるようにします。限定的な共有が必要な情報(要配慮者情報など)については、適切なアクセス制限を設けるなど、セキュリティに配慮してください。
- 防災訓練での活用: 作成したマップを基に、避難訓練や情報伝達訓練を実施します。例えば、マップを見ながら危険箇所を迂回するルートで避難する訓練や、マップに記載された協力者のもとへ情報伝達を行う訓練などです。訓練を通じて、マップの改善点が見つかることもあります。
- 定期的な見直しと更新: 地域環境の変化(新しい建物の建設、道路の開通、高齢者の転出入など)に合わせて、マップの内容を定期的に見直し、更新していくことが非常に重要です。
マップ活用における工夫と注意点
- アナログとデジタルの併用: 高齢の住民の方々には紙のマップが有効な場合があります。一方で、若い世代や緊急時の情報収集にはデジタルマップが役立ちます。両方を併用し、それぞれの利点を最大限に活かすことが、地域全体の防災力向上につながります。
- 住民参加型の作成プロセス: 一部の人が作成するのではなく、できるだけ多くの住民が関わることで、マップへの関心が高まり、防災意識の向上にもつながります。特に、地域の歴史や文化を深く知る高齢者の方々の参画は、マップの質を大きく高めます。
- 行政や専門機関との連携: 市町村の防災担当部署や消防、警察、社会福祉協議会などと連携し、専門的なアドバイスや最新の防災情報を得ることは、より正確で実用的なマップ作成に繋がります。避難場所の指定状況やハザードマップとの整合性なども確認してください。
まとめ:地域で育てる「防災情報マップ」
防災情報マップは一度作ったら終わりではありません。地域の変化に合わせて育んでいく「生きた情報資産」です。このマップ作成を通じて、地域住民の皆さんが防災について話し合い、互いの顔が見える関係性を築くことは、災害時に大きな力を発揮します。
まずは、地域の小さなグループからでも、身近な場所の安全確認から始めてみてはいかがでしょうか。皆様の地域に合った「防災情報マップ」の作成が、災害に強い安全な地域づくりへの第一歩となることを願っております。